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トランプ政権H-1Bビザ改革で企業が直面する壁

by 村上 詩織
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10万ドル手数料と賃金抽選の衝撃

米国の高度外国人労働者向けビザであるH-1Bプログラムが、トランプ政権の一連の改革によって大きな転換期を迎えています。2025年9月に導入された10万ドル(約1,500万円)の新規申請手数料に加え、2026年2月には従来のランダム抽選に代わる賃金ベースの選考制度が施行されました。

これらの変更は「米国人労働者の保護」を掲げていますが、実際にはテック大手から中小企業、大学に至るまで幅広い雇用主がプログラムから締め出される結果を招いています。本記事では、H-1Bビザ改革の全体像とその影響、そして今後の見通しについて解説します。

10万ドル手数料の導入とその衝撃

従来の数十倍に跳ね上がった申請コスト

トランプ大統領は2025年9月19日、新規H-1B申請に対して10万ドルの追加手数料を課す大統領布告に署名しました。この手数料は同年9月21日以降に提出された申請から適用されています。

従来のH-1B申請にかかる費用は、雇用主の規模に応じて2,000ドルから5,000ドル程度でした。基本的な申請費用の内訳は、抽選登録料215ドル、申請手数料780ドルに加え、各種追加料金で構成されていました。新たな10万ドルの手数料が加わることで、1件あたりの申請費用は合計約10万3,380ドルに膨れ上がる計算です。

適用対象と免除規定

この手数料は米国外にいる労働者を対象とした新規申請に適用されます。一方で、既存のビザ保持者の更新や、2025年9月21日以前に承認された申請は免除されます。また、米国内のF-1学生ビザ保持者がH-1Bへステータスを変更する場合も、原則として対象外とされています。

手数料の有効期限は2026年9月21日までの12か月間とされていますが、延長される可能性も指摘されています。

申請数の激減と予想外の財政的影響

大手テック企業が軒並み申請を削減

10万ドルの手数料導入は、企業の採用行動に即座に影響を及ぼしました。米国労働省のデータによると、2025年10月から12月にかけて、主要テック企業のH-1B申請数は大幅に減少しています。

Amazonの認定申請件数は前年同期の4,647件から3,057件へと34%減少しました。GoogleとMetaはそれぞれ前年比で約50%の減少を記録しています。Walmartも2025年後半のH-1B申請を312件にとどめ、前年から50%以上削減しました。AppleやMicrosoft、IBM、Salesforce、Teslaも同様の減少傾向を示しています。

一方で、NVIDIAはAI分野の拡大を背景に申請数を増加させており、業界内での二極化が鮮明になっています。

政府の税収に跳ね返った逆効果

Newsweekの報道によると、2026年2月15日時点で新たな10万ドルの手数料を支払ったのはわずか85件にとどまりました。米国移民評議会(American Immigration Council)のシニアフェローであるAaron Reichlin-Melnick氏の分析では、この手数料導入によって米国政府はむしろ1,950万ドルの収入を失ったとされています。

新規の国外からの申請が87%も減少したことで、USCISが運営費として依存する申請手数料の総収入が大幅に落ち込んだのです。手数料から得られた850万ドルを差し引いても、全体としては大幅な減収となりました。

賃金ベースの新抽選制度

ランダム抽選から実力主義への転換

H-1Bビザのもう一つの大きな変更が、抽選方式の根本的な見直しです。国土安全保障省(DHS)は2026年2月27日に施行された最終規則により、従来のランダム抽選を賃金ベースの加重選考制度に置き換えました。

新制度では、米国労働省の職業雇用・賃金統計(OEWS)に基づく4段階の賃金レベルに応じて選考の重み付けが行われます。具体的には、レベルIV(専門家級)の申請者には4口分、レベルIII(経験者級)には3口分、レベルII(中級)には2口分の抽選エントリーが与えられます。レベルI(初級)の申請者は最も選ばれにくくなります。

FY2027の登録期間と今後のスケジュール

2027年度(FY2027)のH-1Bキャップ登録期間は2026年3月4日正午から3月19日午後5時(いずれも東部時間)まで実施されました。USCISは3月31日までに選考結果を通知する予定としています。

参考として、前年のFY2026では登録雇用主数が約57,600社、登録された受益者数は約33万9,000人でした。これはFY2025の約44万2,000人から大幅に減少しており、制度変更の影響が登録段階から表れています。

スタートアップ・大学への深刻な打撃

中小企業とスタートアップの存続危機

10万ドルの手数料は大企業であればコスト増として吸収できる可能性がありますが、スタートアップや中小企業にとっては事実上の参入障壁となっています。

1人のH-1B雇用にかかる費用は、10万ドルの手数料にUSCIS手数料約2,500ドル、弁護士費用3,000ドルから6,000ドルを加えると10万5,500ドル以上になります。10人を採用すれば100万ドル超、100人なら1,000万ドル以上の初期費用が必要です。外部資金や大幅な経営再編なしには到底捻出できない金額です。

CNBCの報道によると、この手数料により多くのスタートアップが海外人材の採用計画を見直す事態に追い込まれています。

大学・研究機関への波及

H-1Bビザは大学が外国人の教員、研究者、学者を採用する際にも広く利用されてきました。Science誌の報道によると、Stanford大学、ミシガン大学、コロンビア大学などはいずれも2025年度に200人以上のH-1Bビザ労働者を雇用していました。

新たな手数料はこうした大学の採用能力を直接的に損なう恐れがあります。研究活動の縮小、科学技術イノベーションの鈍化、さらには学生向けの授業提供の削減にまでつながる可能性が指摘されています。

また、多くの留学生にとって卒業後の米国就労は高額な学費を支払う動機の一つであり、H-1Bへの道が狭まることで、優秀な人材がカナダやドイツなど他国の大学に流れる懸念も高まっています。

法廷闘争の行方

20州が連邦政府を提訴

10万ドルの手数料に対しては、複数の法的挑戦が進行中です。2025年12月12日には、カリフォルニア州を筆頭にワシントン州、ニューヨーク州など20州がトランプ政権を相手取り、マサチューセッツ州連邦地裁に提訴しました(State of California, et al. v Kristi Noem, et al.)。

原告側は、10万ドルの手数料が行政手続法(APA)および合衆国憲法に違反すると主張しています。具体的には、手数料が行政機関の実際のコストに基づかず恣意的に設定されたと論じています。この訴訟は同布告に対する3件目の法的挑戦です。

連邦裁判所の判断は分かれる

一方で、ワシントンD.C.の連邦地裁判事は、米国商工会議所が起こした訴訟において10万ドルの手数料を合法と判断し、手数料は現在も有効のまま維持されています。今後の控訴審や他の訴訟の結果次第で、制度の存続が左右される可能性があります。

頭脳流出リスクと9月手数料期限

「頭脳流出」リスクの現実化

H-1Bプログラムの大幅な制限は、米国の高度人材獲得力に深刻な影響を及ぼし始めています。求人プラットフォームのデータによると、海外からの米国求人への関心は2023年8月のピーク時から29%低下しています。

Bloombergの報道では、H-1Bビザ制度の混乱を受けてインドなどへ優秀なテック人材が流出する動きが報じられています。移民専門の弁護士やスタートアップからは、テック業界全体に「萎縮効果」が広がっているとの声も上がっています。

今後の注目ポイント

現行の10万ドル手数料は2026年9月21日に期限を迎えます。延長されるか否かが最大の焦点です。また、FY2027の賃金ベース抽選の結果が明らかになれば、新制度の実質的な影響がより具体的に見えてくるでしょう。

さらに、労働省による賃金水準の引き上げ提案も進行中であり、H-1Bプログラムの門戸がさらに狭まる可能性があります。

H-1B改革が迫る高度人材戦略の岐路

トランプ政権によるH-1Bビザ改革は、10万ドルの手数料導入と賃金ベースの抽選制度という二つの柱により、プログラムの性格を根本的に変えつつあります。大手テック企業の申請数は軒並み減少し、スタートアップや大学は人材確保に苦戦しています。皮肉なことに、政府自身も申請手数料の減収という想定外の結果に直面しています。

20州による提訴や複数の法廷闘争が続く中、2026年9月の手数料期限切れまでに制度がどう着地するかは予断を許しません。米国が引き続き世界の高度人材を引きつける国であり続けられるかどうか、その岐路に立たされています。

参考資料:

村上 詩織

移民・難民・教育格差

移民・難民・教育格差など、社会の周縁に置かれた人々の声を丁寧に取材。制度と現実のギャップを浮き彫りにする。

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