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トランプ関税の最新動向 発効中・違法判決・検討中を網羅的に解説

by 長谷川 悠人
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はじめに

2025年1月の第2次政権発足以来、ドナルド・トランプ大統領は矢継ぎ早に関税措置を打ち出してきました。しかし、その多くが裁判所で違法と判断され、政権は法的根拠を次々と変えながら新たな関税を模索するという異例の展開が続いています。2026年5月現在、トランプ関税は「現在有効な措置」「違法と判断された措置」「今後予定される措置」が複雑に絡み合い、企業や投資家にとって先行きの見通しが極めて困難な状況です。

本記事では、米国通商政策の全体像を3つの軸で整理し、各関税措置の法的根拠、現在のステータス、そして今後の見通しを解説します。

現在有効な関税措置の全体像

Section 232に基づく鉄鋼・自動車・半導体関税

トランプ政権の関税体系で現在も確実に有効なのが、通商拡大法232条(Section 232)に基づく「安全保障関税」です。この法的権限は最高裁判決の影響を受けておらず、政権の関税政策の中核を成しています。

2026年4月2日、トランプ大統領は鉄鋼・アルミニウム・銅に対するSection 232関税を大幅に再編しました。ホワイトハウスの発表によれば、これらの金属を主成分とする製品には全関税価額に対して50%の税率が課され、金属を相当量含む派生製品には25%が適用されます。一方、金属含有率が15%以下の製品は関税対象外となりました。

自動車分野では、2025年3月に署名された大統領布告に基づき、完成車に25%のSection 232関税が課されています。自動車部品についても段階的に適用が拡大されました。

半導体については、2026年1月14日に特定の先端半導体とそれを含む製品に25%のSection 232関税が発動されています。ただし、米国内で使用されることを目的としない半導体は対象外です。

米中貿易合意と関税の現状

米中間の関税は、2025年11月の枠組み合意により一定の安定を見せています。2025年5月に双方が課していた高率関税を10%に引き下げる90日間の暫定措置が取られ、その後11月の合意で2026年11月10日まで延長されました。

この合意のもと、中国からの輸入品には10%の相互関税が維持されています。また、中国はレアアース等の重要鉱物に対する輸出規制を撤廃し、2026年から2028年にかけて毎年少なくとも2,500万メートルトンの米国産大豆を購入することを約束しました。ただし、合意の期限が2026年11月に迫っており、その後の交渉次第では再び関税が引き上げられる可能性も残されています。

違法と判断された関税の法的攻防

最高裁によるIEEPA関税の無効化

トランプ関税をめぐる最大の転機は、2026年2月20日の最高裁判決でした。「Learning Resources, Inc. v. Trump」事件において、最高裁は6対3でIEEPA(国際緊急経済権限法)が大統領に関税を課す権限を与えていないと判断しました。

ロバーツ首席判事が執筆した多数意見には、ソトマイヨール、ケーガン、ゴーサッチ、バレット、ジャクソンの各判事が加わりました。判決は、IEEPAの「輸入を規制する」という文言に関税の賦課は含まれず、関税を課す権限は合衆国憲法第1条で議会に留保された「課税権の明確な一部門」であると結論づけています。トーマス、カバノー、アリートの各判事は反対意見を述べました。

この判決により、政府がIEEPAに基づいて徴収した推定1,660億ドルの関税を返還する義務が生じました。2026年4月20日に税関・国境警備局(CBP)の返還ポータルが開設され、輸入業者は電子的に返還請求を提出できるようになっています。最初の返還は5月11日頃から開始される見通しとされています。

Section 122関税への新たな違法判決

最高裁判決を受けた当日、トランプ大統領は直ちに代替措置として、1974年通商法122条(Section 122)を発動しました。この条項はこれまで一度も使用されたことがない規定で、国際収支上の問題に対処するため150日間の一時的な輸入付加税を認めるものです。政権はこれに基づき、ほぼすべての国からの輸入品に10%の関税を課しました。

しかし2026年5月7日、国際貿易裁判所(CIT)は2対1でこのSection 122関税も違法と判断しました。裁判所は、大統領が「国際収支赤字」を自由に定義できるとすれば、いつでもこの条項を発動できることになり法の趣旨に反すると指摘しています。政府が根拠とした経常収支赤字と財貿易赤字は、1974年に議会が想定していた「国際収支赤字」には該当しないとの判断です。

ただし、この判決の効力は訴訟の原告企業に限定されており、すべての輸入業者に適用されるわけではありません。政権は連邦巡回控訴裁判所への上訴を表明しており、関税の徴収は大半の輸入業者に対して継続しています。この関税の法定期限は2026年7月24日です。これにより、トランプ政権は第2期における関税関連の裁判で5連敗を喫したことになります。

検討中・準備中の新たな関税措置

Section 232医薬品関税の段階的発効

2026年4月2日、トランプ大統領はSection 232に基づき、特許医薬品の輸入に対して最大100%の関税を課す大統領布告を発出しました。対象はFDAのオレンジブックまたはパープルブックに掲載された特許取得済みの低分子医薬品およびバイオ医薬品です。

この関税は段階的に発効する仕組みで、大企業向けには2026年7月31日、その他の企業向けには同年9月29日が適用開始日となっています。製造拠点の国内回帰計画を提出し承認を受けた企業には20%の軽減税率が適用され、さらにMFN(最恵国待遇)の薬価協定を締結した企業は2029年1月20日まで0%の税率が認められます。EU、日本、韓国、スイスからの医薬品には15%の税率が適用される優遇措置もあります。ジェネリック医薬品やバイオシミラー、希少疾病用医薬品は対象外です。

Section 301調査と16カ国への新規調査

2026年3月11日、米通商代表部(USTR)は1974年通商法301条に基づき、中国、EU、日本、韓国、ベトナム、インドなど16カ国・地域の「構造的過剰生産能力」に関する調査を開始しました。USTRは、これらの経済圏が国内消費を上回る製品を生産しており、米国の国内生産を圧迫していると主張しています。

具体的な指摘内容は国ごとに異なります。中国の過剰鉄鋼生産、ドイツの化学プラントの低稼働率、日本における非市場的な力による不採算企業の存続などが挙げられています。調査は迅速に進められており、完了目標は2026年7月24日です。調査の結果、各国の措置が「不合理または差別的」と判断されれば、新たな関税を課すことが可能になります。

注意点・今後の展望

2026年夏にかけて、いくつかの重要な期限が迫っています。まず、Section 122関税の法定期限である7月24日が最大の焦点です。議会が延長を承認しない限り、この関税は自動的に失効します。同日はSection 301調査の完了目標でもあり、新たな関税措置が発表される可能性があります。

Tax Foundationの試算によれば、2026年のトランプ関税による米国世帯あたりの負担は約600〜1,300ドルとされています。GDPへの影響は0.5%の減少が見込まれており、通商政策の不確実性が経済に与える影響は無視できません。

議会内でも動きが出ています。2026年2月には共和党からも6人の造反者がカナダへの関税終了に賛成票を投じたほか、大統領の関税権限に議会承認を求める法案も提出されました。大統領の一方的な関税権限に対する牽制は、党派を超えて広がりつつあります。

まとめ

トランプ政権の関税政策は、法的根拠を次々と変えながら展開される前例のない状況にあります。Section 232関税は安定的に運用されていますが、IEEPAおよびSection 122関税は裁判所によって違法と判断されました。医薬品関税やSection 301調査など新たな措置も進行中ですが、司法による歯止めと議会の牽制が強まる中、政権がどのような法的根拠で関税政策を維持・拡大できるかが今後の焦点です。

企業や投資家にとっては、各関税の法的ステータスと期限を正確に把握し、複数のシナリオに備えることが求められます。7月24日のSection 122失効、Section 301調査の結果、11月の米中合意期限など、重要な節目が相次ぐ2026年後半の動向から目が離せません。

参考資料:

長谷川 悠人

米国政治・外交

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